法人決算の決算期末における注意点 2

 このコラムでは中小企業の皆様に、法人決算の決算期末における注意点を、執筆時点での税法に基づいてではありますが、出来るだけわかりやすくお伝えしています。
 今回は、事業年度末に計上する決算賞与の注意点について説明します。

 決算賞与の考え方

 当期の業績が良かった場合に、経営者が従業員に報いるための1つの方法として、夏・冬とは別に行う決算賞与の支給があります。そして決算賞与は法人税法上の経費となるため、その分の法人税等の負担も軽減されます。私は、仮に決算賞与が100万円とすると、「70万円の負担で従業員に100万円の賞与支給の効果があります」とアドバイスをしています。社会保険料の負担・繰越欠損金の有無等細かい点は省略しますが、基本的な考え方は次の通りです。

(1)賞与を支給しないと利益が減少しないため、100万円×30%(法人税等の概算税負担率)=30万円は法人税等を負担することになり、会社には70万円しか残らない
(2)賞与を支給すると30万円の法人税等の負担が減少するため、その分を賞与支給の原資として考えると会社の負担は差額の70万円となる
(3)ただし当期利益のうち一定の金額は、法人税等を支払っても社内に留保した方がよいと考えられるため、当期利益の一部の使い方として考えた方がよい

決算賞与を未払計上する際の注意点

 ただし、決算賞与を決算期末までに実際に支給せず未払計上する場合は、次の(1)~(3)の要件のすべてを満たさなければならず、注意を要します。

(1)賞与の支給額を、各人別に、かつ同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知をしていること
(2)(1)で通知をした金額をその通知をしたすべての使用人に対し、その通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること
(3)その支給額につき、(1)の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること

 (3)の要件は、「『賞与/未払金』の仕訳を行い決算書に賞与を反映させる」と考えればよいので、特に問題にはならないでしょう。
 (2)の要件も、支給日を決算期末から1か月以内の日に設定さえすれば、実務的には(1)の通知時に支給額と支給日を通知しその通知通りに支払う場合が大半だと考えられる(事前通知をする場合に、支給日を通知日よりかなり後の期日に設定すること、又は支給額だけ知らせて支給日を知らせないということはあまり想定できません)ため、(1)の通知をした従業員全員にその通知に記載された金額を支払っている限り、あまり大きな問題にはならないと考えられます。

問題になりやすいのは(1)の要件

 実は、就業規則の賞与に関する規定が、『支給日在籍基準』、つまり「賞与は、支給対象期間のすべてを通じて在籍した使用人で、かつ、支給日現在在職している者に限る」となっている会社は、それだけで(1)の要件を満たさないこととされています。詳しい説明は省略しますが、法人税法の費用の計上基準の大前提に『債務確定主義』という考え方があるため、未払賞与については、「決算期後である支給日に在職している者にしか支給しない→決算期末時点では支給対象者が100%確定していない→決算期末において債務が確定していない」いう考え方にもとづくものと考えられます。

 また、たとえ就業規則の問題がクリアしていても、従業員に対してきちんと事前に通知していなければなりません。税務調査でも問題になりやすいポイントですので、決算期賞与明細書を作成し、その写しに従業員が確認印を押印しているなど、(1)の要件を満たしていることを証明できる措置をとっておくことが必要でしょう。

決算賞与を税務上否認されないためには

 それは、決算賞与を未払いとせずに決算期末日までに支給することです。決算期末までに支給するということは、支給手続きの各日程から逆算すると支給金額を早期に決定しなければならないため、決算対策として考えると決算予測に一定の精度が求められるという課題がありますが、その点さえクリアしていれば、上記の未払賞与の要件で悩まされることは一切ありません。

 また、次のような利点もあります。

賞与に対する社会保険料が未払計上できる

 社会保険料は、納付告知又は実際の納付を待たずに、その社会保険料の計算の対象となった月の末日の属する事業年度で費用として計上することができます。そのため、決算期末までに賞与を支給した場合は、支給した従業員のうち決算期末に在職している者につき(※)、その賞与に対応する社会保険料を未払計上することができます。ただし、「月の末日の属する事業年度」とされているため、決算日が月の末日となっている会社のみが対象となり、例えば決算日が20日となっている会社は未払計上できません。

※ 月末日前に退職した従業員がいる場合、社会保険の資格喪失日は退職日の翌日かつ社会保険の徴収は退職日の前月までとなっているため、その者にかかる社会保険料は発生しません

所得拡大促進税制を確実に適用できる

 決算賞与が未払いであっても、要件を満たして法人税法上の経費と認められる限りは所得拡大促進税制の対象となる従業員給与に含まれますが、未払賞与が否認されると、同税制の対象となる従業員給与から外さなければならないため法人税額から控除される金額が減少します。また、未払賞与を計上し従業員給与を増やすことにより同税制を適用している場合は、その適用ができなくなり、決算賞与の計上時期の否認とのダブルパンチとなります。しかし、決算賞与を決算期末までに支給しておけば、安心して適用することができます。

 節税対策としての決算賞与

 決算賞与を節税対策として考える場合には、決算期末までに支給すると、上記のように、「賞与が確実に経費に計上できる」・「賞与に対応する社会保険料が未払計上できる」・「所得拡大促進税制を確実に適用できる」ため、その効果はより大きくなります。
 決算期末までに支給するためには、資金繰り・決算対策の精度等の課題はありますが、検討してみる価値はあるでしょう。

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